『ほうほう堂@***』『HoHo-Do@***』('10)
©Ririko Arai
劇場を飛び出して、サイトスペシフィックに様々な場所で踊るシリーズ。
構成・振付・出演: 新鋪美佳 福留麻里
Vol.1 2010年3月6日
「ほうほう堂@シャトー小金井」(地下ジム、向かいの歩道、向かいのビルの屋上)
Vol.2 2010年5月16日
「ほうほう堂@吉祥寺シアター」
Vol.3 2010年9月3日4日
「ほうほう堂@八戸のスナック」
スペシャル 2010年11月5日〜14日
「ほうほう堂@留守番」
1年間継続して行なわれたほうほう堂がいろんなところで踊る「ほうほう堂@」シリーズの集大成イベント。
●小金井Artfull Jackでの公演のレビューを来来の鈴木真子さんが書いてくださいました!
「遠距離ダンス」 text : 鈴木真子 (編集者/来来 ) photo:新井梨里子 シャトー小金井という建物に初めて行った。夕刻だったので、35年前に建てられたという その複合施設は廃墟のように見える。狭い階段を上がって2階の元ファミレスだったとかいう部屋に通された。床には枯葉が敷きつめられ、丸椅子がぱらぱらと置いてあり、奥にそれほど大きくないプロジェクターがある。
しばらくして、どこか体育館のような場所で踊るふたりの映像が始まった。実は地下にあるスポーツ施設からの中継だ。広々とした空間で自在に遊ぶ「ほうほう堂」のダンスは心地いい。が、やっぱり、Ustreamの画像は荒い。むくむくと物足りなさももちあがる。そろそろ何か起こりそうな予感?まんなかあたりにすわっていたダンサーの神村恵さんが立ち上がった。窓の外を見ている。道路側は全面ガラス窓だ。コンビニと横断歩道を背景に、映像より5秒ほど先をゆく、「ほうほう堂」のふたり。皆、窓側に視線を移しはじめ、瞬時に高揚感が伝播する。暗がりのなかの通行人や信号が、ふたりのダンスに偶然性のようなものまで加味して、「ほうほう堂」の物語は色づく。やがて窓の視界からふたりが消えて、私たち観客が辿ってきた道を、ダンスしながら進むふたりの中継映像を眺める。焦らされながら、登場を待つ。そして、束の間の邂逅。「10分後に会いましょう」といって、また彼女たちは消えた。それから私たちは、係の人の誘導で市役所の第二庁舎の高層の部屋に案内された。窓側に椅子が並んでいる。窓ガラスをのぞきこむと、ビルの屋上のひとつが舞台になっている。小人か妖精か。部屋で聴くなごむ音楽と屋上で踊る「ほうほう堂」のダンスがシンクロしている。見晴らしのよい部屋から眺める極上のダンス。雑音まじりのワープ体験?
こんな不思議な公演に立ち会えたことに興奮しつつ、小さな部屋は拍手につつまれた。小雨ぱらつく屋上のふたりに、手を振り返す。「ほうほう堂」のダンスを見ると、あったかい気持ちがじわじわと持続するのはいったいどうしてなんだろう。
開演! 中継中!
●鈴木真子さんに続いて、先日の小金井Artfull Jackでの公演のレビューを高橋大助さんが書いてくださいました!
「ほうほう堂、街に出る。」
text :高橋大助 (國學院大学文学部准教授)
初期作品にして代表作「北北東に進む方法」を観れば明らかだが、ほうほう堂のふたりの所作は、次々と形を変える綾取りのようであり、その形が組み合わさって、劇場空間を満たしていく。二人の身体性に依拠したその小世界が繊細かつ緊密に織り上げられるのを観るたびに、彼女たちは舞台向きだ、と独り合点をしていたのだが、実は、ほうほう堂には街がよく似合う。
数年前、前橋の半ば廃墟と化したデパートで行われた「踊りに行くぜ」で、劇場ならぬその会場に観客を導くパフォーマンスをほうほう堂が担当した。あまり流行っているとは言い難いアーケード街に現れて、観客と野次馬を前に、走ったり踊ったり、佇んだり、少しくレトロな衣装のせいもあって、古びたショウウィンドーから、ちょっと不機嫌な愛らしい子どものマネキンが飛び出してきたかのようだった。アーケード街全体が奇妙なかわいらしさに塗り替えられて、観客はわくわくしながら建物の中に入っていく。以前は、劇場の入り口ではいつでもそんな感じだったなあ、と忘れていた感覚を思い出させる出来事だった。そのほうほう堂が、古い商業ビルで開催中のアートイベントでダンスを披露、と聞いて、前橋での邂逅を忘れがたく、雨模様の小金井まで出かけて行った。
初めに通されたのは、かつてはレストランであったという二階の店舗スペース。床には一面、落ち葉が厚く敷き詰められ、いくらか足元がふわふわする。大きな窓越しに見えるコンビニの明かりや道路を行き交う車が、なんだが他人事に思えるのは、落ち葉が携えた雑木林の香りのせいだろうか。正面のスクリーンには、舞台ならぬ空間を踊り巡るほうほう堂のふたりの姿が映し出される。すでにホームページで公開されているスポーツジムでの動画なのだが、落ち葉に浸食された室内で観ると、劇場であれ、どこであれ、機能の決まった建物に強いられる行儀の良さを挑発しているようにも思えてくる。
やがて、窓の外の風景がスクリーンに映し出される。向こうの歩道に現れたほうほう堂。歩行者について行ったり、走ったり、自販機で飲み物買ってシェアしたり・・・その様子、回線の通信速度の関係で、ほんの少し、リアルタイムより遅くなるのだが、観客は、窓とスクリーンと忙しなく視線を行き来させ楽しんでいた。二人が横断歩道を渡り、スクリーンから消え、後方の入り口から登場する。窓からスクリーンから飛び出して、等身大に戻ったほうほう堂を観客は拍手で迎える。挨拶代わり、ひと踊りしたほうほう堂に、さていよいよ、と身構えると、会場を移す旨が告げられ、二人はまた視界から消える。
降り出した雨を気にしながら、係りの方の案内で向かったのは、車道を挟んで斜め向いの市庁舎の中だった。時間外通用口を抜け、戸籍や婚姻の届け口を横目で見ながら、エレベーターで八階まで上がり、通されたのは展望ルームのような場所。奇妙なことには、窓に向かって座席が設えてあった。???と、ともかくも窓の外を覗くと、眼下に見えるやや背の低いビルの屋上に、ふたりの姿があった。こちら展望ルームのスピーカーからは、ちょっとなつかしい歌なども聞こえてくる。屋上全体を使って大きな文様を描くように踊ったり、繊細に関わりあったり。隣の芝生、という諺があるけれど、あんなキュートなニンフたちの舞う、向こうのビルはきっと楽園に違いない、と、窓ガラスに隔てられながら思わず身を乗り出してしまう。もとより届かない。しかし、そのもどかしさがむしろ快感で、いつの間にか一つひとつの動きに気分をコントロールされ始める。屋上にはもうひとり、挙動不審な黒ずくめの少年(実は女性でした。失礼。)がいて、スタッフだろうと推量しながら、ふたりのニンフの間にあって、あたふたとする姿が、なんだかぼく自身のアバターのようにも思えてきて、ますます遠景に取り込まれていく。同時に、あの建物のあるこの街自体が楽しげに思えてきて、眼下に広がる世界すべてが愛おしくなった。街おこしの一つの理想形を目の当たりにしている、とか、アートの解放とはこういうことだ、とか、いろいろ思いついては心高ぶるけれど、そんなことばをするりとすり抜け、ほうほう堂は踊り続ける。
ほんとにどうかしちゃうようなチャーミングな時間が終わり、ほうほう堂のふたりがこちらに大きく手を振る。「あのとき、ありがとう、って大声だしたの、聞こえました」って、そんなの絶対、無理じゃないの。だけど、観客もみんな同じ気持ちだったから、そのとき、展望ルームは拍手喝采に包まれたのでした。
街に出た、ほうほう堂。彼女たちは、越境し、誘惑する。次は、どこへ?
vol.5 2011年3月3日
「ほうほう堂@入口」(世田谷美術館のエントランス、展示室)トランスエントランス参加作品
vol.6 2011年11月3日(渋谷PARCO、服飾ブランドzuccaとのコラボレーション、シブカル祭参加)
「ほうほう堂@パルコ」
vol.7 2011年11月5日(大山崎山荘美術館)
「ほうほう堂@お茶会」
vol.8 2011年11月23日(六本木アートカレッジに参加)
「ほうほう堂@アカデミーヒルズ」
vol.9 2011年11月24日〜11月27日(川崎市アートセンター、美術家淺井裕介、映像須藤崇規とのコラボレーション)
「ほうほう堂@緑のアルテリオ」
vol.10 2012年1月21日(栃木市栃木文化会館)
「ほうほう堂@栃木」